グリーズマン、サッカー界のLGBTを語る#2

*1の続きです。

インタビューの裏話

Lemaireさんが、グリーズマンとのインタビューの裏話を、いくつかのメディアで話しているので、それもついでに、訳しておきます。

#1 So Foot*2*3

アントワーヌ・グリーズマンは、インタビューを受けるって言ってくれたんだ。本当に大した子だよ。本当に感動した。僕はさ、15歳や16歳の頃から、スーパースターが、この話題(同性愛嫌悪問題)について話すことを、ずーっと夢見てきたんだ。そしたら、ほら、そこに、W杯で優勝したばかりのアントワーヌ・グリーズマンがいて、僕のインタビューを受けてくれるって言うんだ。なんてこった!だよ。

僕は彼に「もしも、彼のチームメイトの一人が、同性愛者であることを公にしたら、どう思う?」って聞いたんだ。そしたら、彼は言った。「誇りに思うよ。」って。そして、「その選手をサポートするために、どんなことだってするよ。」って。

自信を持って。僕の目をまっすぐ見てさ。彼がそう言った時の目を見て、僕は、本当に感動したんだ。彼が、心の底からそう言っているって伝わってきたから。

彼のような選手と一緒にプレーができたら、どんなに幸せだったろう。彼のようにサッカーが上手な人ってことじゃなくて、彼のような振る舞いができる人っていう意味で。

#2 Télé Loisirs*4

Q どうやって、グリーズマンとのインタビューができることになったの?

最初は、彼のお姉さんにこのインタビューを提案したんだ。彼女が、グリーズマンのマネージメントを担当しているからね。彼女は、「同性愛嫌悪について話すことは、彼(グリーズマン)にとって、全く問題ないんだけど、とても忙しくて、いつ時間が取れるのか分からない。」って言うんだ。最終的に、僕らはマドリードに招かれた。そこでは、一切のタブーはなかったよ(何でも聞いて良かったよ)。

グリーズマンがそこで言ったことに、僕は本当にびっくりした。彼が最初に言った、「誇り」っていう言葉…。僕は本当に感動したよ。

もしも、若者たちが、ディディエ・デシャングリーズマンのようなスターが、「同性愛者の選手を拒否する理由なんて一つもない」って言っているのを聞いたら、彼らはすぐに、それが正しいって思うようになるんだ。だから、デシャングリーズマンの果たしている役割、彼らが良い見本を示すっていうことは、何より大事なことなんだよ。グリーズマンは、そのことに気が付いているんだよね。

グリーズマンの発言の意義

このドキュメンタリーでのグリーズマンの発言は、グリーズマンに憧れているLGBTの子供たち、同性愛者であるという理由だけで、サッカー選手になるという夢を諦めそうになっている子供たち、同性愛者であることを公表したいと思いながらもそれができない人たち、そして、それだけじゃなく、自らの在り方に悩む全ての人たちを、大いに勇気づける発言なんじゃないかなと思うんです。

ただ、ありのままの自分でいることすら、それに胸を張ることすら許されず、自分を責めたり、生きづらさを感じたりしている子たちに、世間で大人気のスターが(それも彼らが大好きなスターが)、「周りが何と言おうと、君は君のままでいいんだ、僕は君の味方だから」と言うことによって、その子の心の重みがどれだけ軽くなり得るのかを考えると、このグリーズマンの発言の意義というのは、計り知れないと思いました。

それに、スターである彼が、公に、こういう発言をすることにも、とても大きな意義がありますよね。Lemaireさんが指摘したように、有名人の発言の影響力ってすごいじゃないですか。「同性愛者であることを公にした選手を、誇りに思う」「大事なのは、批判することじゃなく、サポートすること」って、グリーズマンが言えば、グリーズマンが言うなら、僕だって私だってそう思う!って言う人が増えると思うんです。

もちろん、このドキュメンタリーでの彼の発言は、イメージ戦略というか、好感度アップを狙ってるだけなのかもしれないし、実際に、どこまで行動に移すことができるかは、正直分かりません。

だとしても、そもそも同性愛というかLGBTについて話すこと自体が、タブー視されているサッカー界において、「自分は、サポートするよ」って、自分の意見をはっきり言えるだけでも、立派なものだと思います。

例えば同様の問題で、サッカー界の人種差別がありますが、こちらは、割と多くの選手が、そのことについて発言していますし、「その問題について語ること」へのハードルは、そんなに高くないと思うんです。

人種差別について自分の意見を言うだけで、好奇の目にさらされることはないというか。それに、おそらく多くのサッカー選手やファンが、「人種差別は良くないことだ」という意見を共有しているんだろうと思いますし。

でも、同性愛嫌悪の問題は違う。

サッカー界では、同性愛ないしLGBTについて話すこと、それ自体が、未だにタブーであり、その問題について発言すること自体が、既にハードルの高いことなんだと思います。だからこそ、このドキュメンタリーにも、フランス代表チームのなかで、デシャングリーズマンしか出演しなかったわけで。

サッカー界における同性愛嫌悪の問題というのは、サポートする、サポートしない以前の問題というか。まだ、そこまですら、到達できていないんじゃないでしょうか。

そこに確かにあるのに、それについて話すことすら許されない。このドキュメンタリーでも指摘されているように*5*6、そもそもいないから、話す必要ないって言う人が多いですけど、そんなわけないんですから。だからこそ、この話題をタブー視せずに、オープンに議論していくことが必要なんだと思います。

グリーズマンという人

サッカー界最大のタブーの一つ、同性愛嫌悪問題について語るドキュメンタリーに、現役選手で唯一出演したグリーズマン。それだけでなく、「カミングアウトした選手をサポートする」とまで言ったグリーズマン

グリーズマンってよく泣いてるし*7、なんかちょっと見た目、やわに見えるけど、実は、とても心が強い人なんじゃないかと思うんです。

試合での安定感や冷静さ、記者対応の上手さなんかを見ていても思いますが、なんていうか、周りが何て言おうと決して曲がらない芯があるというか、ぶれない強さを持ってる気がする。そして、めちゃくちゃ優しくて、心が広い。

『Nothing is so strong as gentleness. Nothing is so gentle as real strength.』という米国の牧師さんの言葉がありますが、グリーズマンは、そんな感じ。強い、ゆえに優しい。優しい、ゆえに強い。本当の強さを持った優しい人。そういう人は、あまりいません。

どこに需要があるか分からない(失礼w)ドキュメンタリーを何本も作ったり、いきなり「メッシとロナウドと同じテーブルで食事がどうたらこうたら」とかって、ものすごい自己評価の高い発言をしたり、唐突にどこから湧いてきたのかわからない、エゴを爆発させて、人々を困惑させることもあるグリーズマンですが、私はやっぱり、グリーズマンって、基本ナイスガイだと思うんです。グリーズマンのような友達がほしい。

TÊTUの表紙&インタビュー

このドキュメンタリーが放送されたあと、グリーズマンは、『TÊTU』という、フランスの有名LGBT雑誌の表紙を飾り、インタビューにも答えています*8

こちらの雑誌のインタビューの簡易訳も、また今度したいと思います。